みずたま日和

どうってことない出来事

歪んだ青い空

わたしには弟と妹がいる。弟は8歳、妹は10歳、年が離れていて、わたしがあげるお下がりを喜んでくれるような可愛い兄妹だ。

弟に使わなくなったiPodをあげたのは、もう何年前のことだろう。

確か、弟は当時中学生くらいで、わたしは「わたしの好きな歌を、弟にも好きになってもらえるチャンスだ!」とかなり意気込んでいた。でも「とりあえず知ってそうな曲を入れよう」と思い、aikoの「花火」や「ボーイフレンド」、Perfumeの「ポリリズム」など有名どころを選び抜いて弟に渡した。

その何日後かに、弟の部屋から「あ〜テトラポッドのぼって〜♪」と口ずさむのが聞こえてきた時はどれほど嬉しかったことか。

 

それから時は過ぎ、弟は高校生になり、バイトを始めた。ある日「aikoPerfumeのファンクラブに入ったんだ」と教えてくれた。それくらい好きになってくれていた。きっかけ作ったわたしのほうが入ってないファンクラブ。なんかすみません。

弟が取ってくれたチケットで、ライブにも行った。それが2月7日、aikoZepp Tokyo公演だ。

 

チケットが届いたとき、弟からチケットの画像と「結構前の方行けちゃうかも〜」と呑気なラインが送られてきた。

画像を見ると、整理番号はAの11と12。

結構前の方どころか、最前列確定である。弟はライブに行き慣れていないので、その番号が意味することを分からなかったらしい。

一方、ライブに行き慣れ果てたわたしは大歓喜。「これ最前列だよ!」と伝えると、そこでやっと事の重大さが分かったのか「え!どうしよう!初めてのライブハウス!」と言っていた。

そう、弟にとって初めてのライブハウスがaikoZepp Tokyo最前列だったのだ。そんなことある?弟の引きの強さたるや。

 

ライブ当日。わたしは万全の体制で最前列を陣取るため、すべてを円滑に済ませることに命がけだった。

狙うはステージと花道の最前列角。そのために、日も暮れた寒空の下、コートをコインロッカーに預けてロンT一枚で開場を待った。

 

開場後、番号順に並ばされて、そのまま二列で中まで進む。チケットもぎられたあとダッシュする気だったわたしたちは、あれ?と思ったけど、まぁそりゃそうだよね、全員ダッシュしたら怪我人でるわ。無事に狙っていた場所を取れて、開演まで1時間待つ。長いようで短い1時間だった。

 

幕が下りて、aikoが目の前に現れたとき、もう号泣だった。三曲目の間奏でわざわざかがんで、わたしと目を合わせてくれた。MCは相変わらずの下ネタだったけど、新曲は最高だった。アンコールにさらにダブルアンコールまであって、そのダブルアンコール一曲目の間奏で奇跡がおきた。

 

最前列とはいえ、精一杯手を伸ばしてもステージには触れられない距離。右隣に作られた花道は、わたしの目線の高さほどあり、これもまた手を伸ばしても届かない。ステージにはちょうど目の前に照明器具があり、aikoもその前には来ないため、手を触れることはできないと諦めていた。「手届かないね〜」と左隣にいる弟に話しかけたその時。

弟が「そっち!!そっち!!」と指をさす。花道側を振り返ると、aikoが花道に腰掛けて、近づいてくれていた。

手を伸ばすと、aikoの手に触れられた。もう夢中で「大好き!」と叫んだ。するとマイクを通さず「ありがとう」と返してくれた。そのあとずっと涙が止まらなかった。

本当に、夢かと思った。ライブ終わり、aikoが繋いでくれた自分の右手を嗅ぐと、バニラのような甘く優しい香りがした。夢ではなかった。現実に起きたことだった。

みんな各々好きなアーティストがいると思うので、その人で思い浮かべて欲しい。ポルノグラフィティが好きなマブダチにこの話をしたら「それってポルノの岡野昭仁と手を握ったみたいなことだよね、死んでしまう」と言ってた。そう、そういうこと。そういうことです。

 

そんなことがあったので、もう余韻とか言ってられる場合ではないほど、ライブ終わってから毎日、頭の中がaikoだらけで困った。ファンクラブにも入った。待ち受け画面もaikoに変えた。

そして昨日。お布団の中でaikoの曲を流し、口ずさみながらツイッターみたりインスタ見たりしていた24時過ぎ。弟からラインが来た。「aikoサブスク解禁だって!」と。

Apple Music派のわたし大歓喜。興奮のあまり、そこから2時間眠れなかった。嬉しくてちょっと泣いた。

解禁してくれたことももちろん嬉しいけど、それよりツイッターでの盛り上がり方が嬉しかった。みんなが喜んでいるところを見て「うれしいね、うれしいね」と一人一人抱き合いたい気持ちになった。

それでは、聴いてください。本日発売「青空」です。どうぞ!

https://music.apple.com/jp/album/%E9%9D%92%E7%A9%BA/1498904468?i=1498904469

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