君の青い車で海へ行こう
父が帰ってきた。時計は朝の4時半。多分事務所でうたた寝してこんな時間になったのだろう、相当お疲れのご様子。
マッサージチェアで携帯いじってたら、ソファで寝なよと声をかけてくれたのはありがたいけど、5分後そのソファで寝てるのは他の誰でもない父。
外が白く明るくなりだして、浅い眠りに入る。「ねぇ、ねぇ、ねぇ…」と延々誰かに話しかけられる夢を見た。
目を覚ますと、ソファで寝てる父のいびきが「ぐぅ、ぐぅ、ぐぅ…」。夢で聞いた呼びかけと全く同じリズムで笑う。
8時過ぎ、会社に早番の人がそろそろ来る時間。会社に鍵を取りに行かなきゃいけないのに、昨日と同じ服。そんなつもりで来てないからもちろん着替えもない。どうしよう。
そこでふと目に入るハンガーにかかった青い麻のワンピース。似合わないだろうからいいやと思ってた母のお下がりを、試しに着てみる。
着てみて初めてわかったけど、意外と可愛い。むしろ似合っているような気までしてくる。起きてきた母が満足そうに「似合うじゃん」と言った。
会社に鍵を取りに寄ってアパートまで歩いて帰るその間に、すっかりこのワンピースが好きになっていた。綺麗な青で、ポッケもちゃんとふたつあって、麻で涼しい。気にしてた二の腕も思っていたほどは目立たない。
もっと大切な日にちゃんと着たいなと思って、アパートに着いてすぐワンピースを脱いだ。
ハンガーにかけて少し眺めていたら、小さな汚れがひとつふたつあるのを見つけたけど、着てみる前より断然愛着が湧いていてあまり気にならなかった。
夏のことは大嫌いだけど、こうやって夏にしか着れない好きな服が増えたら、ちょっとは夏のこと好きになれるかな。